割に合わないスポットバイトを、求人票の段階で見分ける

医師のキャリア

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スポットバイトの失敗談は、検索するとたくさん出てきます。一睡もできなかった当直、終わらない健診、話の通じない院長。読み物としては面白いのですが、読み終わったあとに手元に残るものがありません。その病院に行く前に、どうすれば分かったのかが書かれていないからです。

私は三児の父で、内科系の勤務医です。非常勤の選び方は以前の記事に書きましたが、スポットはまた別の難しさがあります。定期非常勤と違って、勝手を知らない病院に1日だけ行くからです。

この記事では、求人票の段階で判断できることを書きます。実際に私が見ている項目です。最後に、求人票ではどうしても分からない部分についても正直に書きます。

スポットは、実質時給の振れ幅がいちばん大きい

前提として、私は求人を「支給額」ではなく、移動時間を加えた実質時給で見ています。往復2時間かかるなら、4時間の勤務でも拘束は6時間です。

スポットがやっかいなのは、この振れ幅が毎回違うことです。定期非常勤なら通勤経路も終了時刻も2回目以降は読めますが、スポットは毎回リセットされます。そして条件の悪さは、支給額の欄ではなく、その下の細かい条件の欄に書かれています。

交通費が「給与に含む」かどうか

最初に見るのはここです。求人票の交通費の欄には、だいたい次のどれかが書かれています。

  • 交通費別途支給(上限あり・なし)
  • 交通費は給与に含む
  • 記載なし

「給与に含む」は、実質的な減額です。私が受けた案件にもこの形がありました。往復の交通費を自分で出すので、その分だけ手取りが減ります。

さらに税金の扱いも変わります。通勤手当として別に支給されるものは、電車やバス通勤なら月15万円まで非課税です。一方、日当に含まれている交通費は、その部分も課税対象の給与になります。バイト代の税金は本業と合算して計算されるので(詳しくは前回の記事)、ここが効いてきます。

時給1万円・4時間、往復の移動2時間、交通費往復3,000円の外来スポットで計算するとこうなります。

交通費を別途支給 交通費が給与に含む
支給額 40,000円 40,000円
税金(課税所得695〜900万円の場合) 13,393円 13,393円
交通費の自己負担 0円 3,000円
手元に残る額 26,607円 23,607円
拘束6時間での実質時給 約4,430円 約3,930円

課税所得が900万円を超える区分だと、同じ求人が約3,750円と約3,250円まで落ちます。「時給1万円」の求人がこの水準になるということです。

「自家用車通勤不可」は、移動の条件を変える

次に見るのが通勤手段の指定です。自家用車での通勤不可と書かれている求人があります。

車で40分の距離が、公共交通機関だと乗り継ぎで1時間半になることは珍しくありません。特に夜まで続く勤務の帰りは、終電の時刻を気にしながら病院を出ることになったり、本数の少ない路線で1本逃すと30分待ちになったりします。この待ち時間は誰も払ってくれませんが、家に帰り着く時間は確実に遅くなります。

求人票に「車通勤可」とあるか、「公共交通機関をご利用ください」とあるかで、同じ距離の病院でも拘束時間がまるごと変わります。地図アプリで所要時間を調べるときは、車ではなく実際に使う手段で、その時間帯で調べる必要があります。

宿日直許可の有無は、業務量の目安になる

当直のスポットで私が必ず見ているのが、宿日直許可の記載です。

宿日直許可は、労働基準監督署が出す許可です。厚生労働省の許可基準(令和元年7月1日基発0701第8号)では、許可されるのは次のような勤務に限られます。

  • 通常の勤務時間の拘束から完全に解放された後のもの
  • 特殊の措置を必要としない軽度の、または短時間の業務に限ること(要注意患者の状態確認、少数の軽症患者への対応など)
  • 宿直の場合、夜間に十分な睡眠がとり得ること

手術のような「通常の勤務時間と同態様の業務」は、許可の対象外です。まれにそうした業務が発生しても許可は取り消されませんが、その場合は割増賃金を支払う扱いになります。

つまり「宿日直許可あり」は、その勤務が軽いものであると行政が確認した、という意味を持ちます。求人票に書かれた「当直は寝当直です」という自己申告より、判断材料としては強い。

同じ当直1回でも、本業への影響が違う

宿日直許可には、もう一つ効いてくる面があります。

2024年4月から、医師の時間外労働には上限規制がかかっています(A水準で年960時間)。このとき、副業・兼業先の労働時間は本業と通算されるというのが原則です。バイトで働いた時間は、本業の上限を食います。

ただし厚生労働省のFAQによれば、宿日直許可を受けた宿日直は労働時間などの規制の適用が除外されます。勤務間インターバルでも差が出ます。許可のある宿直に連続9時間以上ついた場合は、その時間を「24時間以内に9時間」の休息に充てられます。一方、許可のない宿直を挟む場合は「46時間以内に18時間」の休息が必要になります。

同じ「当直1回」でも、許可のある病院の当直と、許可のない病院の当直では、本業側での扱いがまるで違うということです。

なお通算は、医療機関が副業先の労働時間を把握している場合に必要になるもので、本人からの申告等がなければ通算は要しない、とされています。私の本業にも申告の仕組みは特にありません。ただ、制度としてこうなっていることは知っておいて損がありません。

求人票で確認している項目

ここまでをまとめると、応募前にチェックしているのは次の6点です。

項目 見るポイント
交通費 別途支給か、給与に含むか。上限額はいくらか
通勤手段 自家用車通勤の可否。実際に使う手段での所要時間
宿日直許可 当直案件なら記載の有無
救急の応需 救急車を受け入れているか、輪番日か
業務範囲 入院患者の管理が中心か、新規の判断が発生するか
終了時刻 最終受付の時刻か、業務終了の時刻か

上の3つは求人票にほぼ必ず書かれているので、その場で判断できます。下の3つは書かれていないことがあり、特に終了時刻は「最終受付18時」と「業務終了18時」がどちらも「18時まで」と表記されるので、区別がつかないまま応募することになります。

求人票に書かれていない項目は、エージェント経由なら応募前に確認してもらえます。私は求人サイト、エージェント、スポット求人アプリの3つを併用していて、求人サイトとエージェントの役割を1つでカバーできるのが医師バイトドットコムです。運営はメディウェル(アインホールディングス子会社)で、定期非常勤・スポット・日当直を扱っています。

それでも、行ってみないと分からない

正直に書くと、ここまでの確認をしても、行ったことのない病院は、行く前と行ってからで必ずギャップがあります。

求人票と事前確認で分かるのは、制度と建物の話までです。救急車の受け入れ件数は聞けても、その日に何件来るかは誰にも分かりません。「宿日直許可あり」でも、その日に急変があれば起きます。スタッフの人数や、電子カルテの使い勝手、指示の出し方の作法も、行ってから知ることになります。

私は、応募前に必ず聞くと決めている質問リストを持っていません。作ろうとしたこともありますが、聞いて分かることは求人票にだいたい書いてあり、求人票に書いていないことは聞いても分からない、というのが実感です。

だから、できるのは確実に削れる条件だけを先に削っておくことだと思っています。交通費が給与に含まれている、車で行けない、宿日直許可がない。この3つは求人票の段階で分かります。それだけでも、外れを引く確率はかなり下がります。

まとめ

  • スポットは実質時給の振れ幅が大きい。移動時間を拘束時間に足して考える
  • 交通費が「給与に含む」なら実質的な減額。通勤手当として別途支給されるものは月15万円まで非課税だが、日当に含まれる分は課税対象
  • 自家用車通勤の可否で、同じ距離でも拘束時間が変わる。所要時間は実際に使う手段で調べる
  • 宿日直許可ありは、軽度・短時間の業務であることを行政が確認したという意味。自己申告の「寝当直です」より強い
  • 副業先の労働時間は本業の上限(A水準で年960時間)と通算されるのが原則。ただし宿日直許可を受けた時間は規制の適用外
  • それでも初めての病院にはギャップが残る。求人票で削れる条件だけ先に削る

参考にした資料

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